日本語文法学会論文賞
- 第7回日本語文法学会論文賞(2024年度)
- 第6回日本語文法学会論文賞(2023年度)
- 第5回日本語文法学会論文賞(2022年度)
- 第4回日本語文法学会論文賞(2021年度)
- 第3回日本語文法学会論文賞(2020年度)
- 第2回日本語文法学会論文賞(2019年度)
- 第1回日本語文法学会論文賞(2018年度)
- これまでの選考委員
第7回 日本語文法学会論文賞(2024年度)
「名詞の(非)飽和性とカテゴリー化―多義の事例から―」24巻1号(2024年3月)
氏家 啓吾氏 ・ 田中 太一氏
氏家 啓吾氏 ・ 田中 太一氏
[授賞理由]
「作家」のような飽和名詞と,「作者」のような非飽和名詞の違いについては,これまで多くの名だたる研究の豊富な蓄積があり,従来はレキシコンのレベルで指定された意味論的特性であるとの考えが中心的であった。それに対し本論文は,「類・事例モデル」と「フレーム・役割モデル」という,カテゴリー化の異なる2つのモデルを基盤に持つという仮説を提案し,両名詞の相互移行と多義性の問題を解決する新たな説明原理を提示した。これまで指摘されてきた多様な言語現象と複雑な論点を的確に整理した上で,この区別を人間の認知プロセスのあり方として捉えようとした点は,従来の研究を超えたスケールの大きな研究として高く評価できる。
論文の記述においても,議論の進め方が丁寧かつ明快であり,独創的な工夫ある記述が多々見られたことにより本論文の説得力が高められている点も特筆すべきである。
本論文は,これからの名詞研究に大きな影響を与える,発展性・将来性のある研究であり,本論文を契機に,今後,名詞の研究が一層進むことが期待される。
以上の理由により,本論文を日本語文法学会論文賞にふさわしいものと判定した。
「作家」のような飽和名詞と,「作者」のような非飽和名詞の違いについては,これまで多くの名だたる研究の豊富な蓄積があり,従来はレキシコンのレベルで指定された意味論的特性であるとの考えが中心的であった。それに対し本論文は,「類・事例モデル」と「フレーム・役割モデル」という,カテゴリー化の異なる2つのモデルを基盤に持つという仮説を提案し,両名詞の相互移行と多義性の問題を解決する新たな説明原理を提示した。これまで指摘されてきた多様な言語現象と複雑な論点を的確に整理した上で,この区別を人間の認知プロセスのあり方として捉えようとした点は,従来の研究を超えたスケールの大きな研究として高く評価できる。
論文の記述においても,議論の進め方が丁寧かつ明快であり,独創的な工夫ある記述が多々見られたことにより本論文の説得力が高められている点も特筆すべきである。
本論文は,これからの名詞研究に大きな影響を与える,発展性・将来性のある研究であり,本論文を契機に,今後,名詞の研究が一層進むことが期待される。
以上の理由により,本論文を日本語文法学会論文賞にふさわしいものと判定した。
第6回日本語文法学会論文賞(2023年度)
「近世後期洒落本に見る丁寧語の運用とその地域差―京都・大坂・尾張・江戸の対照―」23巻1号(2023年3月)
森 勇太 氏
森 勇太 氏
[授賞理由]
本論文は,現代語の話しことばに見られる,基本的に文末に丁寧語を付すという丁寧体のスタイルがいつ,どのように成立したのかを探るため,近世後期洒落本に現れる遊女から客への丁寧語使用について,京都・大坂・尾張・江戸の4地域を対照して考察した。丁寧語使用のあり方として,江戸は高頻度使用,大坂は低頻度使用が多く,京都・尾張は低頻度使用のみ,という地域差が見られたことについて,近世後期の江戸語は標準語としての性格を帯びる時期で,丁寧語の高頻度使用が必要とされた一方,京都・大坂・尾張では,素材敬語の使用で聞き手配慮が十分果たされ,丁寧語の必要度が低かったと結論づける。
話しことばにおける丁寧体の確立期の様相について,言語運用の観点から,社会言語学に基づく新しい方法論を取り入れ,当時の地域・社会の状況と照らし合わせて考察した本論文は,目的,方法設定,調査結果に対する読み取り,それに基づく考察等,いずれも手堅い。情報量が多い調査結果も示し方が工夫されており,論証過程も明瞭である。近世語を地域の特徴と一体的に捉えていくこと,江戸語に求められる要素が標準語成立に関わっていくことなど,今後の研究に資するであろう数々の視点が提示されている。以上の理由により,本論文を,日本語文法学会論文賞にふさわしいものと判定した。
本論文は,現代語の話しことばに見られる,基本的に文末に丁寧語を付すという丁寧体のスタイルがいつ,どのように成立したのかを探るため,近世後期洒落本に現れる遊女から客への丁寧語使用について,京都・大坂・尾張・江戸の4地域を対照して考察した。丁寧語使用のあり方として,江戸は高頻度使用,大坂は低頻度使用が多く,京都・尾張は低頻度使用のみ,という地域差が見られたことについて,近世後期の江戸語は標準語としての性格を帯びる時期で,丁寧語の高頻度使用が必要とされた一方,京都・大坂・尾張では,素材敬語の使用で聞き手配慮が十分果たされ,丁寧語の必要度が低かったと結論づける。
話しことばにおける丁寧体の確立期の様相について,言語運用の観点から,社会言語学に基づく新しい方法論を取り入れ,当時の地域・社会の状況と照らし合わせて考察した本論文は,目的,方法設定,調査結果に対する読み取り,それに基づく考察等,いずれも手堅い。情報量が多い調査結果も示し方が工夫されており,論証過程も明瞭である。近世語を地域の特徴と一体的に捉えていくこと,江戸語に求められる要素が標準語成立に関わっていくことなど,今後の研究に資するであろう数々の視点が提示されている。以上の理由により,本論文を,日本語文法学会論文賞にふさわしいものと判定した。
「「不定語疑問文の主題化」の歴史」23巻2号(2023年9月)
北﨑 勇帆 氏
北﨑 勇帆 氏
[授賞理由]
本論文は,不定語疑問文の回答部を話者自身が説明する「なぜなら」のような表現を「不定項説明の表現」と規定し,その歴史について考察した。元来の和文は「その理由は」のように語彙的に説明する方法のみを持ち,「なぜなら/なぜかといえば」のような疑問節の埋め込み(不定語疑問文の主題化)を手段として持たなかったこと,不定語疑問文の主題化は漢文訓読によって生まれた表現であり,トナリ型(疑問文+ト+ナリ),発話動詞型,ナリ型(疑問文+ナリ)の順に成立したこと,さらに,なぜナリ型ではナゼナラ(バ)だけが現代語まで継続的に使用されたのかについて解き明かした。
「なぜなら…からです」という言い方がなぜ生まれたのかという独創的な問いに対し,「文相当句を承ける用法の拡張」という構文史,並びに複数の層からなる文体史を視野に,スケールの大きな研究が展開されている。言語資料の性格をふまえ,文法史上の様々な出来事を適切に絡めながら,妥当性の高い歴史記述がなされるとともに,ジャンル・スタイルが,ある表現の成立や定着に影響を及ぼす可能性を示した点は,文法史・文体史両研究の活性化に大いに貢献するものと言える。以上の理由により,本論文を,日本語文法学会論文賞にふさわしいものと判定した。
本論文は,不定語疑問文の回答部を話者自身が説明する「なぜなら」のような表現を「不定項説明の表現」と規定し,その歴史について考察した。元来の和文は「その理由は」のように語彙的に説明する方法のみを持ち,「なぜなら/なぜかといえば」のような疑問節の埋め込み(不定語疑問文の主題化)を手段として持たなかったこと,不定語疑問文の主題化は漢文訓読によって生まれた表現であり,トナリ型(疑問文+ト+ナリ),発話動詞型,ナリ型(疑問文+ナリ)の順に成立したこと,さらに,なぜナリ型ではナゼナラ(バ)だけが現代語まで継続的に使用されたのかについて解き明かした。
「なぜなら…からです」という言い方がなぜ生まれたのかという独創的な問いに対し,「文相当句を承ける用法の拡張」という構文史,並びに複数の層からなる文体史を視野に,スケールの大きな研究が展開されている。言語資料の性格をふまえ,文法史上の様々な出来事を適切に絡めながら,妥当性の高い歴史記述がなされるとともに,ジャンル・スタイルが,ある表現の成立や定着に影響を及ぼす可能性を示した点は,文法史・文体史両研究の活性化に大いに貢献するものと言える。以上の理由により,本論文を,日本語文法学会論文賞にふさわしいものと判定した。
第5回日本語文法学会論文賞(2022年度)
「否定的文脈に用いる「何が/何の」の史的展開」22巻2号(2022年9月)
深津周太氏
深津周太氏
[授賞理由]
本論文は,中世末期から近世へかけての「何が/何の」の変化の実態を明らかにし,その要因を探ったものである。中世末期,「何が/何の」は「何+主格助詞」という構成で,推量と共起する“反語用法”で使われた(例:何が情が強かろう)。この用法から,否定と共起する“否定明示用法”が派生し(例:何の忘れはせぬ),「何が/何の」は1語の副詞に変化した。「何が」は中世末期にすでにこの用法が見え,「何の」は遅れて近世前期から見られる。その後,「何の」の方は勢力を増し,近世後期に否定応答で使用する,感動詞的な“文脈否定用法”を獲得したが(例:何の,じつとおとなしうして居なされ),対照的に,「何が」の勢力は衰え,近世を通して反語用法だけが細々と続いた。「何が」が衰えた要因には,近世に「が」が主格助詞として優勢になったために,「何が」は「何+主格助詞」と意識されやすく,1語の副詞として否定明示用法を維持するのが難しくなったことが考えられる。
以上を論旨とする本論文は,近年さかんな副詞の歴史的研究の中で重要な一編と評価できる。「何が/何の」に関する変化の現象を総合的に捉え,その背後に主格助詞「が」の発達を想定する考察に,視野の大きさが感じられる研究である。用例を丁寧に分析し,様々な可能性を考慮しながら,妥当性の高い推論を行っており,応答表現に関する部分の考察は,今後の対人コミュニケーション機能の研究でも参考になるだろう。
以上の理由により,本論文を,日本語文法学会論文賞にふさわしいものと判定した。
本論文は,中世末期から近世へかけての「何が/何の」の変化の実態を明らかにし,その要因を探ったものである。中世末期,「何が/何の」は「何+主格助詞」という構成で,推量と共起する“反語用法”で使われた(例:何が情が強かろう)。この用法から,否定と共起する“否定明示用法”が派生し(例:何の忘れはせぬ),「何が/何の」は1語の副詞に変化した。「何が」は中世末期にすでにこの用法が見え,「何の」は遅れて近世前期から見られる。その後,「何の」の方は勢力を増し,近世後期に否定応答で使用する,感動詞的な“文脈否定用法”を獲得したが(例:何の,じつとおとなしうして居なされ),対照的に,「何が」の勢力は衰え,近世を通して反語用法だけが細々と続いた。「何が」が衰えた要因には,近世に「が」が主格助詞として優勢になったために,「何が」は「何+主格助詞」と意識されやすく,1語の副詞として否定明示用法を維持するのが難しくなったことが考えられる。
以上を論旨とする本論文は,近年さかんな副詞の歴史的研究の中で重要な一編と評価できる。「何が/何の」に関する変化の現象を総合的に捉え,その背後に主格助詞「が」の発達を想定する考察に,視野の大きさが感じられる研究である。用例を丁寧に分析し,様々な可能性を考慮しながら,妥当性の高い推論を行っており,応答表現に関する部分の考察は,今後の対人コミュニケーション機能の研究でも参考になるだろう。
以上の理由により,本論文を,日本語文法学会論文賞にふさわしいものと判定した。
第4回日本語文法学会論文賞(2021年度)
「聞き手における文の認定」21巻2号(2021年9月)
小亀拓也氏
小亀拓也氏
[授賞理由]
本論文は,話し言葉において,同一の語列(音声連続)が,聞き手によって一文とも二文とも把握される可能性のある現象を対象に,聞き手はどのようにして文を認定しているのか,なぜ聞き手の解釈がわかれるのかを,文成立論の観点から分析したものである。具体的には,従来の文成立研究において言及されてきた,文法的な切れ目と音声的な切れ目という二種類の切れ目に注目し,用例を操作,分析することによって,(1)聞き手の文認定のあり方にゆれが生じるのは,独立語や一部の動詞命令形,挿入句,言いさし表現など,統語的断続関係の曖昧な要素が含まれる場合であり,その場合には音声的な切れ目が重要な役割を果たすこと,(2)聞き手による文認定は,二種類の切れ目を手がかりに,意味の切れ目,言語行為的意味を見出す行為であること,(3)その行為は,先になされた解釈を更新することも含め,解釈の過程において動的に行われるものであること,等を主張している。
伝統的な日本語研究の知見を十分にふまえたうえで,文法研究の根源的な問題である文の成立論を,聞き手の解釈という斬新な角度から提示した挑戦的な論考である。二種類の切れ目を操作しつつ用例を分析する方法も手堅く,聞き手における文認定は動的に進捗するという主張にも説得力がある。今後の文成立論のひとつの方向を示しており,学界に与える影響も大きい。
以上の理由により,本論文を,日本語文法学会論文賞にふさわしいものと判定した。
本論文は,話し言葉において,同一の語列(音声連続)が,聞き手によって一文とも二文とも把握される可能性のある現象を対象に,聞き手はどのようにして文を認定しているのか,なぜ聞き手の解釈がわかれるのかを,文成立論の観点から分析したものである。具体的には,従来の文成立研究において言及されてきた,文法的な切れ目と音声的な切れ目という二種類の切れ目に注目し,用例を操作,分析することによって,(1)聞き手の文認定のあり方にゆれが生じるのは,独立語や一部の動詞命令形,挿入句,言いさし表現など,統語的断続関係の曖昧な要素が含まれる場合であり,その場合には音声的な切れ目が重要な役割を果たすこと,(2)聞き手による文認定は,二種類の切れ目を手がかりに,意味の切れ目,言語行為的意味を見出す行為であること,(3)その行為は,先になされた解釈を更新することも含め,解釈の過程において動的に行われるものであること,等を主張している。
伝統的な日本語研究の知見を十分にふまえたうえで,文法研究の根源的な問題である文の成立論を,聞き手の解釈という斬新な角度から提示した挑戦的な論考である。二種類の切れ目を操作しつつ用例を分析する方法も手堅く,聞き手における文認定は動的に進捗するという主張にも説得力がある。今後の文成立論のひとつの方向を示しており,学界に与える影響も大きい。
以上の理由により,本論文を,日本語文法学会論文賞にふさわしいものと判定した。
第3回日本語文法学会論文賞(2020年度)
「副詞『決して』の意味―条件的関係の不成立と非一回性―」20巻2号(2020年9月)
大塚貴史氏
大塚貴史氏
[授賞理由]
本論文は,従来の研究において「不利な前提」「部分否定」「強調」などと個別に指摘されてきた現代日本語の副詞「決して(~q)」の意味について,「条件的関係」の観点から統一的に分析を加えたものである。「(pでも)決して~q」は,(1)基本的に,裏に持つ「pならばq」という「条件的関係」が成立せず,非一回的に~qであることを表すこと,(2)その中で~qが「話し手の基準」に照らした判断である場合,「話し手の基準」以外の「基準」に照らした判断では(一般的に)qが成立する可能性があるということを語用論的に含意し,「qとは言い切れない」という「部分否定」の意を生じ得ること,(3)また,pが「不定」である場合,「決して~q」は「どんな条件でも~q」ということを表し,語用論的に「強調」の効果を生じ得ること,の3点を主張している。
「決して」が持つ「意味」と「文脈における語用論的な効果」を区別し,前者の意味から後者の効果が生じる要因を統一的な分析枠のもとで明らかにすることによって,研究を大きく発展させた。先行研究の検討は丁寧であり,記述の方法も客観的で,反証可能なかたちで提示されている。文法的な語彙項目の意味研究のひとつのモデルを示しており,学界に与える影響も大きい。以上の理由により,本論文を,日本語文法学会論文賞にふさわしいものと判定した。
本論文は,従来の研究において「不利な前提」「部分否定」「強調」などと個別に指摘されてきた現代日本語の副詞「決して(~q)」の意味について,「条件的関係」の観点から統一的に分析を加えたものである。「(pでも)決して~q」は,(1)基本的に,裏に持つ「pならばq」という「条件的関係」が成立せず,非一回的に~qであることを表すこと,(2)その中で~qが「話し手の基準」に照らした判断である場合,「話し手の基準」以外の「基準」に照らした判断では(一般的に)qが成立する可能性があるということを語用論的に含意し,「qとは言い切れない」という「部分否定」の意を生じ得ること,(3)また,pが「不定」である場合,「決して~q」は「どんな条件でも~q」ということを表し,語用論的に「強調」の効果を生じ得ること,の3点を主張している。
「決して」が持つ「意味」と「文脈における語用論的な効果」を区別し,前者の意味から後者の効果が生じる要因を統一的な分析枠のもとで明らかにすることによって,研究を大きく発展させた。先行研究の検討は丁寧であり,記述の方法も客観的で,反証可能なかたちで提示されている。文法的な語彙項目の意味研究のひとつのモデルを示しており,学界に与える影響も大きい。以上の理由により,本論文を,日本語文法学会論文賞にふさわしいものと判定した。
第2回日本語文法学会論文賞(2019年度)
「到達構文としての名詞文―動的事態指向の修飾表現と静的表現との結合事例―」19巻2号(2019年9月)
久保田一充氏
久保田一充氏
[授賞理由]
本論文は,「*もうすぐ月が赤い」のように一般に動的事態指向の修飾表現と共起しない静的表現に対して,「もうすぐ私は20歳だ」のように適格になる事例を,到達の動的意味をもつ「到達構文(所要表現 Nだ)」ととらえ,その成立には,「もうすぐ」などの所要表現が事態の成立(スケール上のNが表す地点への到達)を導くものであること,および,「20歳」などの名詞が語句レベルで到達点を提示できることが,関与的であることを論じたものである。
これまであまり取り上げられることのなかった事象に注目し,「発見構文」など他の構文とも比較しながら,詳細に分析を加えている。従来の枠にとらわれない動・静の文法という視点も,今後の発展性が見込まれ,高く評価される。以上の理由により,本論文を,日本語文法学会論文賞にふさわしいものと判定した。
本論文は,「*もうすぐ月が赤い」のように一般に動的事態指向の修飾表現と共起しない静的表現に対して,「もうすぐ私は20歳だ」のように適格になる事例を,到達の動的意味をもつ「到達構文(所要表現 Nだ)」ととらえ,その成立には,「もうすぐ」などの所要表現が事態の成立(スケール上のNが表す地点への到達)を導くものであること,および,「20歳」などの名詞が語句レベルで到達点を提示できることが,関与的であることを論じたものである。
これまであまり取り上げられることのなかった事象に注目し,「発見構文」など他の構文とも比較しながら,詳細に分析を加えている。従来の枠にとらわれない動・静の文法という視点も,今後の発展性が見込まれ,高く評価される。以上の理由により,本論文を,日本語文法学会論文賞にふさわしいものと判定した。
「名詞『路線』の助数詞への用法拡張―数量詞の意味的機能の観点から―」19巻2号(2019年9月)
田中佑氏
田中佑氏
[授賞理由]
本論文は,名詞「路線」がどのような過程を経て助数詞へと用法を拡張したのかを,「-店」などの助数詞化のプロセスと比較しつつ分析したものである。数詞と結合した「路線」は,数量詞として統語的分布を拡張するなかで名詞的用法から機能的用法へと用法を拡張するとともに,それに付随するかたちで助数詞へと展開するという一定のルートがあることを解明している。
取り上げた事象は小さなものに見えながら,名詞から助数詞への拡張の一般的なプロセスを提示しており,他のデータや他の助数詞の発達プロセスの分析による検証,拡張ルートのさらなる精緻化など,今後の研究の展開が期待される。調査方法にも工夫があり,分析方法も堅実である。以上の理由により,本論文を,日本語文法学会論文賞にふさわしいものと判定した。
本論文は,名詞「路線」がどのような過程を経て助数詞へと用法を拡張したのかを,「-店」などの助数詞化のプロセスと比較しつつ分析したものである。数詞と結合した「路線」は,数量詞として統語的分布を拡張するなかで名詞的用法から機能的用法へと用法を拡張するとともに,それに付随するかたちで助数詞へと展開するという一定のルートがあることを解明している。
取り上げた事象は小さなものに見えながら,名詞から助数詞への拡張の一般的なプロセスを提示しており,他のデータや他の助数詞の発達プロセスの分析による検証,拡張ルートのさらなる精緻化など,今後の研究の展開が期待される。調査方法にも工夫があり,分析方法も堅実である。以上の理由により,本論文を,日本語文法学会論文賞にふさわしいものと判定した。
第1回日本語文法学会論文賞(2018年度)
「現代日本語共通語における終助詞ガ,ダ」18巻2号(2018年9月)
大江元貴氏
大江元貴氏
[授賞理由]
本論文は,現代日本語共通語における「だめでしょうガ」「嫌だよーダ」のような「ガ」「ダ」を終助詞として位置づけ,これらが,文に特定の心的態度を「付加」するのではなく,文に含まれる心的態度を「顕示」するという機能を持つことを主張したものである。従来あまり議論されてこなかった現象に注目し,終助詞の意味類型を新たに提案した点が評価される。今後さらに議論を展開させる余地は残されているが,それも本論の新奇性と発展性の現れとして評価できる。以上から,日本語文法学会論文賞に値するものとする。
本論文は,現代日本語共通語における「だめでしょうガ」「嫌だよーダ」のような「ガ」「ダ」を終助詞として位置づけ,これらが,文に特定の心的態度を「付加」するのではなく,文に含まれる心的態度を「顕示」するという機能を持つことを主張したものである。従来あまり議論されてこなかった現象に注目し,終助詞の意味類型を新たに提案した点が評価される。今後さらに議論を展開させる余地は残されているが,それも本論の新奇性と発展性の現れとして評価できる。以上から,日本語文法学会論文賞に値するものとする。
これまでの選考委員
<2018年度~2021年度>
井上優,小田勝,加藤重広,小柳智一,定延利之,佐藤琢三,渋谷勝己,白川博之,日高水穂,前田直子,松木正恵,三宅知宏,森山卓郎